ひねくれ続けたクルーと私

投稿日時:2013/10/13  カテゴリー名:エピソード

昔、昔、
とんでもなく
ひねくれているアルバイトが
おりました。

一年浪人して
大学に入ったばかりの
男性でした。

レストランで働くことは
初めてだと言っていました。

私は初歩から
サービスを身をもって
教えました。

私が伝えるサービスは
いかにお客様に楽しんでいただくか、
CAPANNAをお選びいただいた
感謝の気持ちを持って、
全ての行動や言動に
歓待精神を込めることを
大切にしておりました。

彼は、私が一つ見本を見せるごとに
「何で、そこまでするんですか?」
と、ことあるごとに疑問を持ちながら、
嫌々、私を見習いました。

そうするべき意味を
ことあるごとに伝えても
「何で、そんなことまで・・・」
という反応を拭うことが
できない日々が続きました。

閉店後の片付けでも
私が
「〇〇大学は楽しい?」
と聞いても
「別に」

それどころか
私に
「マネージャーはどこの大学ですか?」
と聞くので
「法政大学だよ」
と答えると
「外部入試ですか?」
「いや、法政二高から推薦だよ」
と私が応えると
「なんだ、付属上がりか・・・
付属上がりはバカばっかりですね。」
と返してきました。

多少「ピキッ」ときましたが、
「まあ、試験して入った人より
バカかもしれないね。」
と心を押し殺して応えました。

バースデーのお客様にサービスしている
CAPANNAのイベントでも
私がお客様を喜ばせていると
「くだらない・・・」
という反応ばかりでした。

いちいち、イラつくことばかりを
発する彼でしたが、
私は反対に燃えてきました。
こんな難しい人間を
心あるサービスマンに育てられなければ
今後、私は一定の人間しか
伝え、教えることができなくなってしまう、
と考えていました。

なるべく彼とマンツーマンでいるようにし、
イラつく言葉と闘いながらも、
根気負けしないで、
サービスの心を伝え続けました。
彼もまた、染まってたまるか、
とでも言いたいかのように、
反発は続きました。

私はお客様だけではなく、
共に働くクルー達への
思いやりも同等に大切にしてきました。
当然、彼にもそれを伝え続けました。
「ばかばかしい・・・」
と何度も言われました。

約3ヶ月が過ぎようとしていました。

2つのきっかけがありました。

よくカップルでご来店されるお客様が
いらっしゃいました。
いつも、とても楽しそうに過ごして
いらっしゃいました。
私もそのカップルゲストと
お2人の邪魔にならない程度に
楽しく会話させていただいておりました。
彼と一緒にサービスをしていた際に、
お2人に呼ばれました。
男性の方が照れくさそうに
「今、プロポーズをして
彼女と結婚することになりました。」
と、私は
「本当ですか!
おめでとうございます。
私もお2人のご結婚が決まって
感激です!」
とお伝えすると
女性の方が
「ちょっと険悪な時でも
CAPANNAに来て
石井さんと話してると
いつも楽しい2人に戻れました。
CAPANNAと石井さんに
感謝の気持ちでいっぱいです」
と、目を涙でいっぱいにして
女性はおっしゃいました。
ありがたいお言葉をいただき、
私も涙があふれました。
男性は
「石井さん、
本当にありがとう!」
とおっしゃって、
私に握手を求めました。
私は男性とかたい握手を交わし
また、涙があふれました。

そして、その日
一人のアルバイトクルーが
家の都合で引っ越すこととなり、
CAPANNAを辞めることとなりました。
そのアルバイトがシフトに入る
最後の日に彼もいました。

今日で辞めるアルバイトが
最後のタイムカードを押す時に私は
「一生懸命にお客様を楽しませてくれて
本当にありがとう。
CAPANNAの心のサービスを
いつも支えてくれて、ありがとう」
と心から伝えました。
辞めることとなったアルバイトは
「こちらこそ、ありがとうございました。
CAPANNAで人を思いやることを
人を楽しませる楽しさを
たくさん教えてもらいました。
CAPANNAでアルバイトをして
いなかったら、今の自分は
ありません。」
と言って泣いてくれました。
辞める彼は公務員になることを
目指していましたが、
この時にはサービスに目覚め
某ホテルで本気でサービスマンとして
入社する希望へと変わっていました。

この2つの出来事がきっかけかどうかは
正直、分かりません。
それでも、この頃から彼は変わっていきました。

驚くべきことに、
歓待精神を込めてサービスをするように
なりました。
しかも、私のしていることを
よく見るようになり、
彼からの質問も増え、
そこからは、驚くべきスピードで
心あるサービスマンへと
成長していきました。

新人が入ると、
私が、彼に伝え、見せ、
教えてきたことを
彼は新人に対して
自発的にするようになりました。

気が付けば、
彼は心あるサービスマンとして
私が最も信頼できるクルーに
成長していました。

自発的にお客様を思いやり
楽しませ、
同様にクルーにも
思いやり、面倒見の良い
先輩クルーになっていました。

もっとお客様に楽しんでいただくため
もっとクルーのチームワークを
高めるため、
彼は、いろいろな提案までも
私に言ってくるようになりました。

ある日
私は過労で倒れました。
それでも私が営業に参加しなければ
サービスの責任者が不在の時期でした。

彼は私に言いました。
「僕を信じて下さい。
そして2~3日、どうか休んで下さい。
絶対にお客様を楽しませ続けます。
絶対にチームワークを高めます。
だから、心配かもしれませんが、
僕を信じて、任せて下さい。」
私のもうろうとした頭の中で
当初の彼からは信じられないような
言葉をもらい。私は彼に
「ありがとう。信じるよ。
でも、大学は大丈夫なの?」
と聞くと
「3日間は大学を休みます。
開店から閉店までのCAPANNAを
必ず守ってみせます。」
と彼は言い、
立ち上がれない私をおぶって
タクシーにのせました。
涙があふれました。

その3日間、携帯電話も
なかった頃ですので、
彼は私が心配することを
懸念してか
2時間に1度くらいの頻度で
私の自宅に電話を入れて
CAPANNAの内外的な状況を
細かく私に伝え、
「順調ですから、安心して下さい」
と繰り返しました。

その彼は
大学に入学してから
就職して大学を卒業するまでの
4年間をCAPANNAの
アルバイトチーフとして
力を尽くしてくれました。

彼と働く最終日、
閉店後、
彼との別れの瞬間が
やってきました。

私は
「長い間、たくさんの力を
もらったよ。
本当に、よく
ここまで協力してくれた。
心から、本当にありがとう。」
と伝えました。

彼は
「僕はCAPANNAに入った時、
一年浪人してたからか
何でも否定的にとらえ、
人の心なんて考えることも
ありませんでした。
でも、
いつでもお客様に全力で
心を尽くすマネージャーの姿に
クルー全員を思いやる
マネージャーの姿に、
そして
多くのお客様とクルーの
信頼を得ているマネージャー
の姿を見続けて、
心の大切さ、思いやりの大切さ
を知りました。
そのお蔭で、学校でも
就職活動でも、
全ての人間関係が良くなって
いきました。
僕はマネージャーと出会って
なかったら・・・。」
と言いながら、彼は
溢れ出る涙で言葉を詰まらせました。

私は彼を抱きしめ
「感謝したいのは俺の方だよ。
ありがとう。本当にありがとう。」

そうして、彼は去っていきました。

その後、毎年
彼は、私の自宅に年賀状を
送ってくれました。

そして
毎年、私に会いに来てくれています。

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WEDDING of CAPANNA

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