ありえない!4回連続でご迷惑をお掛けしたゲスト
投稿日時:2013/09/27 カテゴリー名:エピソード
まだまだチームのオペレーションが
ベストではなかった頃の
とんでもない失態の連続でした。
当時、およそ40代くらいのご夫婦
だったかと記憶しております。
店内は満席。まだまだ不慣れな
クルーも多く、お料理のご提供も
サービスも、全く、いき届いては
いませんでした。
ご夫婦はボトルワインと共に
アンティパストから
ゆっくりと食事をお楽しみになるような
感じに見受けました。
1度目の失態は
サービスクルーのオーダーミスでした。
多分、オーダーの復唱を怠ったのでしょう。
ご夫婦のオーダーしていない料理が
提供されました。
およそ、初めてのご来店のようでした。
ワインと会話を楽しまれていたところに
水を差すように、当然のことながら
ご機嫌を損ねました。
私が出向き、心からの謝罪と応対を
させていただきました。
2度目の失態は
混雑の中、ご夫婦が実際にオーダーされた
料理を優先的につくらず、
オーダーの1番最後にしてしまったことで
アンティパスト(前菜)にも関わらず
30分もお待たせしてしまったことです。
あり得ません。
ご夫婦は徐々に会話がなくなり
険しい表情へと。
ここからは、私がご夫婦の専属に
なりました。
再度、心からお詫び致しました。
お客様の楽しい食の時間を
おつくりすることが私達の使命で
あるのにも関わらず、
反対に楽しい食の時間を壊してしまったことを
心からお詫びの言葉と共に
会話させていただきました。
なんとかご夫婦は
「次からは、しっかり頼むよ」
と、おっしゃっていただけました。
私は満席の店内をコントロールしながら
他のお客様とも会話をし、
それでも2度もご迷惑をお掛けした
ご夫婦のお世話に比重をおきました。
3度目の失態が発生しました。
今度はキッチンクルーが
ご夫婦がオーダーしたものと違うパスタを
つくってしまったのです。
キッチンも多過ぎるオーダーを抱えながら、
それでも、またしても
なぜ、また同じご夫婦のところで・・・。
既にご夫婦がパスタをオーダーしてから
30分弱が経過しておりました。
今からつくり直しても約15分は
かかってしまう状況でした。
私は、間違えたパスタを持って、
ご夫婦に合わせる顔がない思いで
それでも正直にお伝えするしかない状況でした。
当たり前のことながら、
とうとう、ご夫婦は怒りをあらわになさいました。
私は
「もし、ご注文のパスタをお待ち頂けるのでしたら、
こちらの間違っておつくりしてしまったパスタを
ご試食されながら、お待ちいただくことは
できませんでしょうか」
とお伝えしました。苦し紛れの言葉でしか
ありませんでした。
ご夫婦は、当然、あきれたご様子でした。
多くのお怒りを含むお言葉をいただきました。
私は、またしても、心からお詫びしつつも、
真剣にご夫婦のお言葉を受け止め、
それに対して、情けなくもチームの
オペレーションの未熟さに対して
全身で、反省の言葉をお伝えしました。
それでもご夫婦は、オーダーされたパスタではない
パスタをご試食されながら、お待ちいただけることに
なりました。
キッチンクルーにも、オーダーの最優先で
つくるよう伝えながら、出来上がる時間を
常に気にしながら、
私は、ご夫婦のお世話に全力を注ぎました。
違うワインもサービスさせていただき、
少し、私と会話をしていただける状態へと
ご夫婦の心を取り戻しつつある状況でした。
ありえない4度目の失態が起こりました。
私は時間を気にしながら、
キッチンクルーに
「〇卓のパスタは、あと、どのくらい?」
と確認すると、
最悪の結果が待っておりました。
当時のシェフは、私が嫌というほど確認していた
ご夫婦のパスタを忘れていました。
当時の彼の許容範囲を超えた
オーダーの量だとしても、
ご夫婦への失態の数々を伝えながら
優先的につくるように言ったパスタを
忘れていたのです。
正直、「終わった・・・」と思いました。
ご夫婦に合わせる顔が、
もう私にはないと思いました。
心から全力でお詫びしながら、
全力でご夫婦のお世話をしながら、
会話をしていただける状況まで
ご夫婦の心を少しずつ、少しずつ
戻していっていたのに・・・。
ご夫婦がパスタのオーダーをしてから
既に45分経過していました。
ここから、つくるとしたら
あと15分お待ちいただくことになり、
合計で1時間もパスタをお待たせすることに
なるのです。
あり得ません。
それでも、チームの失態は私の失態ですから
正直に事態をお伝えしに、
ご夫婦のテーブルへ伺いました。
少しはお楽しみいただける心になってきていた
ご夫婦は、完全に表情を失い
そして、私への言葉も閉ざしてしまいました。
当然のことだと思います。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ただ一言
「もう何もいらない!」
とおっしゃいました。
私は平謝りしながらも
「度重なり過ぎるご迷惑の代わりになるものなど
ございませんが、せめても
食後のドルチェとカフェをサービスさせて
いただいても宜しいでしょうか。」
と伺いました。
ご夫婦は
無言で、間違っておつくりしてしまった
そして、もう冷めきってしまった
パスタを、嫌悪感をあらわに
召し上がっていらっしゃいました。
その後も私は心から全精力で
ご夫婦のお世話をしながら
これ以上、ご気分を害さない程度に
幾度も話し掛けさせていただきました。
ご夫婦は、終始、無言でした。
私は
「多くのレストランがある中
せっかくCAPANNAをお選びいただき
楽しい食の時間を、と思っていただいたにも関わらず、
反対に私たちの努力不足と至らなさで
楽しい食の時間を壊してしまい、
心から、申し訳のない気持ちでいっぱいです。
まだまだ未熟な私共ですが、
必ず、今晩からミーティングをし、
混雑時でも、お客様に安心してお楽しみいただける
オペレーションを組み直し、精進致します。
ほんの少しでも結構です。
もう1度、私達にチャンスを下さい。
1ヶ月後でも、3ヶ月後でも構いません。
これだけのご迷惑をお掛けしてしまったのですから
このまま、お2人にご来店していただけないのが
当たり前の状況だとは存じます。
必ず、短期間で、見違えるように成長致します。
どうか、いつでも結構ですから、
もう1度だけ、チャンスを下さい」
とお伝えしました。
でも、4度も、あり得ない失態で
ご夫婦にご迷惑しか、お掛けしていないのですから、
当然、ご夫婦は無言でした。
その後も私はドルチェやカフェをお持ちしたり、
ご夫婦のお世話を続けました。
ご夫婦は5,6分間、無言でお過ごしになり、
私がお持ちしたドルチェやカフェは
手つかずのままでした。
何度もお詫びの気持ちを込めながら
ご夫婦に話し掛けました。
ご夫婦は席を立ち、
キャッシャーカウンターに向かいました。
私は当然
「本日は、本当に申し訳ございませんでした。
ここまでご迷惑ばかりで、言葉も出ない程です。
もちろん、本日はお金はいただけません。
お金をいただけるような内容ではありません。
それでも、しつこくて申し訳ありません。
いつでも結構ですから、
いつの日か、もう1度だけチャンスを下さい。
必ず、成長して、お2人に楽しい食の時間を
お届け致します。」
私は、あまりにも申し訳なくて、
目に涙を溜めながらお伝えしました。
ご夫婦は無言のまま、ドアを開けて
振り返ることなく、お帰りになりました。
私は、ご夫婦のことを考えました。
どんな気持ちでCAPANNAをお選びいただき
そして、どんな風に楽しませてくれるレストランなのか
料理は美味しいのか、サービスは良いのか
雰囲気はどうなのか・・・。
そして、度重なるご迷惑にも
きっと心を押し殺して我慢していただいたに違いない。
もっと文句も言いたかったはずなのに、
無言を押し通し、お2人に、心の負担しか
かけていないじゃないか。
少なくとも、期待感をもっていらしたのに、
お客様に、こんな思いをさせたくて
CAPANNAをつくったのではない。
申し訳ない気持ちと罪悪感でいっぱいでした。
自分の器量のなさに悔しさでいっぱいでした。
まだ満席の状況でしたので
気持ちの切り替えができないまま、
サービスに戻りました。
その合間で、ご夫婦のいらっしゃったテーブルを
片付けようと、大きめなお皿を持ち上げました。
メモが1枚、お皿の下にありました。
「店長へ
この店はまだまだ未熟だね。
だけど、店長の心
私たちに、しっかり届きました。
来月、店長の言葉に期待して
必ず来店します。
頑張ってね。」
と・・・。
涙があふれました。
それは
ご夫婦の心がなんて豊かで優しいんだろう。
そして
あきらめず、心を尽くし続けて良かった。
という気持ちの入り混じった涙でした。
そして、もう1つ
メモと一緒に、お皿の下に隠して
置いていって下さった1万円札の存在でした。
メモの裏には
「このお金は店長への大きな真心代金です」
涙が止まらず、
ご夫婦がオーダーした内容以上の1万円札を
私は握り締め、外まで出て
ご夫婦を追っかけました。
見つかりませんでした。
でも
翌月から、毎月ご来店していただき、
毎月、お会いすることになりました。
CAPANNA in RESORT